(4)作品鑑賞(続き)
作品133「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」は、瀬戸内海底探査船美術館「一昨日丸(おとといまる)」がその内のひとつでした。粟島海員学校のちょうど正面に停留されています。3年前からプロジェクトがはじまったようで、水中考古学研究所や企業などが手を組んで瀬戸内の海底から発見、引き揚げた物の数々は粟島海員学校内の教室に展示されています。
船内見学券が別に用意されており、粟島海員学校の受付でいただけます。よくよく考えてみると、このプロジェクトは特別の「美術館」として存在するようです。船内見学券を提示すると、「海底探査船美術館OTOTOI丸開館記念チケット」が交付されて、船内の「ナウマン象の化石展」が鑑賞できます。つまり、ナウマン象化石資料は、特別企画展として探査船美術館で展示され、それ以外は粟島海員学校の教室で展示されているというものです。
すっかりOTOTOI丸そのものが現代アート作品だと思っていました。ペインティングされた探査船の外観が現代アートの作品であり、船内も美術館展示物のようです。
作品133「粟島製塩所」は、瀬戸内海の海水を霧状の散布するミストルームです。粟島海員学校の教室のなかに、透明なビニールで大きなドームが出現しており、その中心に枝振りがよい竹木を1本立てています。そこに外部から取り込んだ海水が降り注ぎ、塩の結晶を彫刻作品化する試みのようです。現代アートの広がりは限りがありません。
(5)瀬戸芸祭の魅力と地域振興
春会期には沙弥島、小豆島、直島などを巡ってきて、秋会期のはじめにあたり、ふたたび瀬戸芸祭の魅力について考えます。瀬戸芸祭の特徴のひとつは、何といっても瀬戸内の浮かぶ離島が会場となっていることです。ふたつ目は、現代アートといっても多彩な作品が楽しめたりあるいは悩ましく感じたりすることのようです。これには現代アートとは何かが、ますます分からなくなって迷路をさまようことにもなりかねません。それでも遠方からの鑑賞者が多いことに驚き、現代アートが惹きつけるものは何かを探りたくなります。
では、いくつか瀬戸芸祭の評価を試みてみましょう。まずは、瀬戸内の離島が会場というロケーションに魅力がありそうです。県内外を問わず、穏やかで多島美を誇る瀬戸の海を眺めながらの船上の人はまさに旅人です。短時間の船旅にこそ、未知の現代アートへの接近への絶好のプロローグとなっています。
次に、作品鑑賞の場所が手じかに配置されていることです。多くの場合は徒歩だけで鑑賞できますし、移動手段が島内バスなどであってもわずかな時間でめざす作品に出会えます。地図を片手に非日常の風景を楽しむことが加われば、誰でもきっと何かに共感することができます。
3つ目は、開催地である地元のみなさんの歓迎ぶりが素晴らしいことです。「島がにぎやかになって嬉しいばかりです」が代表的な感想でしょう。島内を歩いていると、地元のみなさんが誰かれなく挨拶を交わしてくれます。
普段の生活の中では味わえない「体験」です。それでは視点を変えて、地域の活性化と文化振興について考えてみましょう。春の伊吹島と秋の粟島を巡っての地域振興にかかる寸評の第1は、過疎化する離島の将来を危ぶむ意識が「瀬戸芸祭大歓迎」・「島民総出でボランティアを」という行動に表れていることです。伊吹島の人口は650人余、粟島は300人余で、どちらも確実に人口減少が進んでいます。ここに期間限定を前提にしているとはいえ、島人口の何十倍という鑑賞者が押し寄せるのですから、島民と鑑賞者は非日常という空間を共有するのです。現代アートという媒介イベントを通して、一時的にせよ、島ににぎわいが出現したのです。第2は、期間限定のにぎわいを体験することになっているとはいえ、おらが島の歴史や伝統と生活事情の変遷を再発見していることは間違いありません。手描きの島マップの作成や路地の清掃などが行き届いていることで分かります。
瀬戸芸祭と地域の関係は、経済効果が何億円とか来島者が何倍もなったなどの指標だけで理解するのではなく、来島者が瀬戸内の美を発見したこと、地元の人たちが地元の歴史と風土を再認識したことと捉えるべきでしょう。
(つづく)
田村彰紀/月報359号(2014年6月号)