瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その5 直島~

 

6.直島

 

土曜日の直島行きフェリーは船客でいっぱい。久し振りの1時間の船旅は非日常を感じさせる。

(1)本村地区のメインは「家プロジェクト」だ。まずは、最近完成して人気のある作品003(ANDO MUSEUM 安藤忠雄)に向かう。この地区は狭い路地が迷路のように走っていて、角々に立っている案内ボランティアのガイドは的確である。

古い民家の内部に、安藤らしくコンクリートを斜めに組み込んでいる。外光を巧みに計算して、角度をつけたコンクリートに反射させている。したがって民家の内部は明るい。聞くと、民家の庭をなくして斜体のコンクリートを設置したとのことだが、元が民家だけに屋内のコンクリート壁には違和感がある。

民家を支えている梁(木材)とコンクリート壁のコントラストが面白い点であろうか。もちろん居住は不可能で、意匠建築の粋を追究した作品なのであろう。また、地下ホールを新たにつくっている。これも何を主張しているのか分からないが、玄関先にあるガラスの三角錐から光を取り入れる工夫がされている。パリのルーブル美術館にあるガラスのピラミッドにヒントを得たものか。

次に、「角屋」、「護王神社」、「南寺」、「はいしゃ(歯医者)」、「碁会所」と迷路に点在する作品を廻った。

護王神社の境内に並んでいる寄付石を何気なく見ていると、「社殿一式 福武総一郎」とあった。神社の社殿そのものを作品とする方法としては、最善の知恵と手段なのかもしれない。「社殿一式」寄付とすることで、自由な作品に強引転化したものだろう。芸術は神をも越えてしまうのである。

「角屋」は民家の座敷部分にプールを作って、電飾が浮いている様を展示している。もちろん足を踏み入れると真っ暗である。目が慣れてくるとプールに色彩のある造形が浮かび上がってくる。

「南寺」はこちらも内部が真っ暗な闇の世界。安藤設計の建築家屋に入ると、正面にぼんやりとスクリーンのようなものが感じられる。ぼんやりしたスクリーンに何が現れるという訳でもない。結局、何を主張しているのか、それがどうしたといった作品である。闇の中の白っぽいスクリーンが作品らしい。どの鑑賞者も感想を述べ合うという雰囲気ではない。

「碁会所」は4畳半の座敷に木彫りのツバキを散らしているだけだ。案内ボランティアに聞くと、ここに碁会所らしき建物があった訳ではないらしい。「はいしゃ」は、かつての歯医者住宅を活用して、いたるところにペイント、造形物を配置したものだ。現代アートとしてよく見る作品である。

(つづく)

田村彰紀/月報349号(2013年8月号)