瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その24(完) 犬島 part2~

(2)作品鑑賞

作品093「犬島F邸」は、「新しい生のかたち」をテーマとするものらしい。古民家をリノベーション(既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり価値を高めたりすること)して、建物の中に巨大な造形をすっぽり納めています。内部に入り外部につながる坪庭的な場所には、動物や植物を思わせる様々な形態、テクスチャー(材料の表面の視覚的な色や明るさの均質さ、触覚的な比力の強弱を感じる凹凸といった部分的変化を、全体的にとらえた特徴、材質感覚、効果を指す)をもつ彫刻を配置しています。巨大なオブジェとテクスチャー彫刻の関係などは理解できないものがあります(現代アート全般にいえることですが)。

面白い出会いがありました。ここで案内役をしている女性がいました。広島大学で陶芸を研究している台湾からの学生です。会期中は犬島に住み込んで、他の案内担当と共同生活をしているようで、近くの地元の方が「後にも先にも外国からの人が住みつくのは珍しいことじゃ」と手作りの惣菜をいただいているそうです。

作品095「S邸/コンタクトレンズ」と作品094「A邸/リフレクトゥ」は作者が同じです。前者は、狭い路地の右左に、大きな透明アクリルの壁を作り、大きさや焦点が異なる円形レンズを設置しています。後者は、同じく円形の透明アクリル設備を作って、中に入ると作品と外の風景が眺められます。このギャラリーには、華やかな色の造花の花びらを貼り合わせた作品が秋空にマッチしています。

これらの作品は広い空地いっぱいに造形されていて、たったひとつの作品だけの美術館です。驚いたことに、きちんと空調設備まで用意されています。周辺の狭い路地や空き家の風景ともそれほどの違和感はありません。

作品098「I邸 Reception/Universal Wavelength/Prayer」と一体となっている中庭には、季節の花々が美しく咲き誇っています。作品の本体は、木造平屋を改修した建物で、光をキーワードに水、音、植物などの要素を用いたインスタレーションでいたって簡素な造りです。建物の中に足を踏み入れると、お寺の鐘のような音が天井から降ってきます。片方の壁部分には大きなガラスがはめ込まれていますが、もう一方の壁部分には敷居はあるものの中庭と連続しています。

雨、風、台風などのときはどうするのかと心配になりました。やはり犬島精練美術館が気になりましたので、製錬所のなごりを思わせる鉄柵から入りました。製錬所の建物跡のレンガ積みは見事に洗練された造形物に見えました。また、直島の地中美術館に似せたかのように、美術館の中心部は地中に配置されているようです。館内の明かりは地上に設けられた窓からの自然光となっています。建築美術のアイデア、独創的なデザインがいたるところで発揮されています。

 

以上、2013年6月号から長期の連載となりました。瀬戸芸祭の面白さをお楽しみいただけましたでしょうか。次回の瀬戸芸祭は2016年です。ご愛読に感謝します。

(完)

田村彰紀/月報365号(2014年12月号)