瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その21 高見島~

多度津港から作品114「新なぎさ号・キュート・アップ作戦」に乗船して高見港まで25分の船旅です。フェリー新なぎさ号の船体一面にピンク色の花が咲いています。いたずら心から船体に触ってみました。花模様はペインティングではなく、ピンク色のシールを花デザインに切り抜いて貼り付けているようでした。いわば、プレカット・デザインです。

(1)高見島

平成22年国勢調査によると、人口は43人、31世帯とあります。その前の平成12年国勢調査では118人でしたから、10年間で75人の減少です。島内を循環する道路に沿って家並みがみえますが、どこもかしこも空き家ばかりのようです。案内所で現在の人口を聞くと、「35人くらいかな」ということでした。3年間で8人の減少です。ところが、多度津町ホームページでは、平成25年10月1日住民基本台帳人口は53人です。国勢調査と住民基本台帳との人口齟齬はよくある話ですが、やや極端な人口数字となっています。

高見島には集落が3つあって島の北端近くに板持・南部に浜・浦の集落があります。浜集落は島唯一の平坦地で、漁村集落特有の家と家の軒が接するような建て方です。その間を細い道が通っているのです。浦集落は一部海岸沿いに建っている家もあるが、大多数は山の急傾斜地に建っています。なかには伝統的な様式をそのまま残した大きな家屋もあるが、人が住んでいる家は少なく、ほとんどが無住になっているようです。

浦集落の海岸沿いに猫が多くいました。あまり多くいるので数を数えると見える範囲で約20匹でした。地元のおばさんは人間より猫の方がはるかに多いのだよと云っていました。急傾斜地の浦集落が、あまりにも人が住んでいる様子が無いので、帰ってから高見島の人口を調べると、2005年度の国勢調査では45世帯・73人と発表されていました。

高見島港が見えてくると、沿岸部や山頂への道路に沿って黄色い旗が林立して歓迎の意を表してくれています。秋空と瀬戸の海にマッチして、風にたなびくイエローフラッグは「高見島は元気ですよ」と叫んでいるようでした。

(2)作品鑑賞

作品115「SeaRoom」は高見港下船場のすぐのところにあります。海水入りのガラス瓶を人の背丈ほどに積み上げ、海に向かって馬帝状に作られています。制作者も作品ガイドもいないのが、現代アート展示の特徴であろうと思われますが、何を主張しているのか分かりかねます。

瀬戸芸祭スタッフに声をかけてみると、「さあ、何を表現しているのでしょうかね」といいつつ、「作家の人たちはそのつど言うことが変わりますからね」でした。また、制作途中で大きな風を受けて、上部の一部が崩れたことから、ガラス瓶の数段積み上げを諦めたようです。本来は、人の背丈をはるかに超えた作品になる予定でした。積み上げた高さに主張があるものとも思えず、瀬戸内の色が変幻自在する様子を楽しむことにも成功しているとは思えませんでした。

作品117「畏敬・よみがえる失われたかたち」は、3000枚の黄色い旗が空地一面になびいているものです。大量の旗は、多度津町のすべての園児、小中学生たちが作ったもので、黄色の下地に不器用な手形の青色が印象的です。高見港に翻っていた黄色旗は歓迎のあいさつをしています。ただ、島内に子どもたちの姿がみえないのが残念です。

(つづく)

田村彰紀/月報362号(2014年9月号)