瀬戸内国際芸術祭2013と地域政策に関する試論~その15~

人気の小豆島芸術祭(2013年10月)を楽しみました。島バスに揺られて、草壁~馬木~坂手と、のんびりと乗降の人になりました。

(1)瀬戸芸祭を存分に楽しむには「会期外」に出かけることをお薦めした。現代アートは、多くの場合、屋外展示がなされているので、会期外ならば雑踏のなかで垣間見るということはありません。さらに、現代アート特有のその「場」とアートとの融合をしっかりと見定めることができます。体験上から、会期外に出かけることの利点を整理しておくと次のとおりです。

①混雑が避けられて、対象作品を前後左右から存分に観賞できること。②あわよくば制作者に出会えるかもしれないこと。③地元の人たちと会話から作品鑑賞の参考意見が聞けること。④会期外でも鑑賞者がいない訳ではなく、気軽に作品感想を交換できること。

(2)内海地区の馬木エリアです。高松港から内海フェリーに乗船して、短時間の船旅であっても異境の地に運んでくれるという感傷にかられます。

作品082「Umakicamp」では、地元の人たちが秋期開催の準備をしていました。「この近くにある作品はどこですか」と問うと、「この建物が作品です。基礎はコンクリートで耐震性を考えています。屋根は軽くするために垂木のテント張りです。ひとりの人が造ったんですよ」とのことでした。休憩スポットであり、地元の人たちとの交流拠点のようです。

この作品は、どう考えても現代アートと呼ぶには似つかわしくありませんでした。建築物が部分的に芸術性を帯びていることはあるかもしれません。物の本では、建築が工学系に属されている日本は珍しいそうです。「日本において建築とは、まず近代化のために西洋から学ぶべき技術として捉えられ、芸術・美術と捉える意識は薄くなった。また濃尾地震や関東大震災で煉瓦造建築に大きな被害が生じたことから、日本独自の耐震構造技術への関心が高まった。こうして、建築はもっぱら工学的な学問と考えられる風潮が強まった。この意識は今日まで続いている」とする解説もあります。

しかしながら、この作品のどこに芸術性(意匠性)があるのか判然としませんでした。ガイドブックには、「このエリアに暮らす人たちと、ここを訪れた人々をつなぐ仕組みをつくり出す」とあります。

作品083「小豆島町コミュニティアートプロジェクト」は素晴らしい芸術作品です。芸術の創作に地元人が350人も関わったことです。それも8万個の「たれ瓶(弁当用の小型容器)」に10種類の醤油を注ぎ、見事な醤油グラデーションに仕上げています。芸術とは、芸技(わざ)の技術と解釈されることがあります。

たれ瓶に醤油を流し込むだけではなく、褐色の醤油を10段階に徐々に薄めています。それを8万個、統一した色彩制作するのですから技能、芸の技というほかありません。ガイドブックには、「アーティストをしのぐ作品をつくろう」のスローガンで取り組んだようです。

馬木エリアは「しょうゆ蔵」が連担する伝統的な地区で、「醤(ひしお)の郷」と呼ばれています。醤(ひしお)とは、塩を加えて発酵させて製造した調味料または食品です。小豆島での醤油の歴史は、かの太閤秀吉が大坂城を建造する際、小豆島から築城のための石材を切りだした時に遡ります。その時、紀州湯浅(醤油発祥の地)から醤油の製法を学び、古くからの生業であった製塩とあわせ持って醤油業に発展したものです。

小豆島は瀬戸内海の要所というべき位置を占めており、京都・大阪という大消費地にも近く、地域産業としての醤油業が大いに発展しました。これは現在にも引き継がれて「醤(ひしお)の郷」として名を馳せているわけです。

作品084「おおきな曲面のある小屋」は、新たに設置されたトイレです。曲面は醤油樽をイメージしていると駐車場係りの人から教えられました。屋根はモザイク状にガラス瓦といぶし瓦で葺いており、粗末な小屋を表現しているそうです。説明パネルには、英文でHutwithArtWallとあり、「芸術的な塀のある掘っ立て小屋」とでも訳せそうです。しかし、現代アート風ではあるが、少しおしゃれにデザインされた建築物に止まりそうです。

 

(つづく)

田村彰紀/月報356号(2014年3月号)